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大阪地方裁判所 昭和39年(ヨ)2823号 判決 1966年12月15日

申請人 前村トモ子

被申請人 東邦紡績株式会社

主文

一、被申請人は申請人をその従業員として取扱え。

二、被申請人は申請人に対し、昭和三九年九月二七日以降毎月二八日限り、その前の月の二一日からその月の二〇日までを一ケ月として、一ケ月金一八、五〇七円の割合による金員を支払え。

三、申請人のその余の申請を却下する。

四、訴訟費用は被申請人の負担とする。

(注、無保証)

事実

申請人訴訟代理人は、主文第一項同旨および「被申請人は申請人に対し、金一一、〇一四円と昭和三九年九月二七日以降一ケ月金一八、五〇七円の割合による金員を支払え。」との裁判を求め、申請の理由および被申請人の主張に対する反論を次のとおり述べた。

第一、申請の理由

一、当事者

被申請人会社(以下会社という)は、紡績業を営業目的とする株式会社で、肩書地に本社および工場を有し、女子工員約二五〇名、男子工員約二〇名を雇傭している。申請人は、昭和三二年三月郷里の中学校を卒業と同時に会社に入社し、その従業員であつた。

二、解雇

会社は、昭和三九年三月一九日、申請人に対し、申請人が同年二月二〇日組合活動の一環として「便所の悪臭を消せ!」と題する東邦紡績労働組合教宣部発行の「情報」なるビラを作成し、寮(女子工員用)および更衣室、喫煙室(いずれも男子工員用)において配布したことについて「右情報は組合文書とは認め難く、その内容も濫りに会社を非難し会社の秩序を乱すものであり、申請人の所為は会社就業規則第六八条第八項および第六九条第一三項に該当し、懲戒解雇に値するところ、申請人は何ら反省することなく、同年三月一日頃再び『日本原水協の旗のもと』なる教宣部情報を作成配布した。この文書も組合文書とは認められない。右理由により昭和三九年三月二一日までに退職を申出るよう催告する。同日までに退職申出がないときは同月二三日付をもつて懲戒解雇する。」との趣旨の通告をなし、右退職勧告に応じなかつた申請人に対し、同月二三日懲戒解雇の意思表示(以下本件解雇または第一次解雇ともいう)をなした。なお、会社は、同日申請外吉留美智子に対しても右同様の理由で懲戒解雇処分をなした。

三、解雇の無効

(一)  不当労働行為

会社には、昭和三六年一〇月三〇日、当時の女子工員約三五〇名をもつて東邦紡績女子労働組合(以下女子組合という)が結成され、一方昭和三七年四月、当時の男子工員約二〇名により東邦紡績男子労働組合(以下男子組合という)が結成され、両組合は、同年六月一七日、合併して現在の東邦紡績労働組合(以下組合という)を結成した。組合は、会社との間に、唯一交渉団体約款、ユニオンシヨツプ条項、非組合員の範囲に関する取決めを含む協定を締結している。

申請人は、前記女子組合の結成に参画し、結成と同時に書記長に選任され、昭和三七年四月二六日からはその専従者となり、前記合併による組合の結成に際しても同様組合の専従者としての書記長に選任され、昭和三七年一一月および昭和三八年一一月の定期大会でそれぞれ再任され、組合の中心的活動家として積極的な組合活動を続けていたものである。

ところで、女子組合が結成されるや、会社はこれを敵視する態度をとり、組合員に対しては、東邦社内報等により、民青同の非難中傷とその組合支配を強調し、申請人を含む良心的活動家に対するアカ攻撃を執拗に繰り返し、また従業員の父兄に対しても同趣旨の書面を発して組合攻撃を行う一方積極的かつ計画的な組合介入を重ねていた。前記のように女子組合の結成に引続き男子組合が結成され、さらに単一組合への途をたどつたことも、男子工員を女子組合へなだれ込ませることにより組合の御用化をはかろうとする会社の意図に基くものであつた(前記女子組合の結成に際し男子工員を除外したのは男子工員中に会社と密接な関連を有している者がおりこれを組合員として加入させることが不適当であつたことの事情が存したためであり、女子組合としては、男子組合との合併を望まない態度であつたが、上部団体である大繊連の指導もあつたことから、結局合併に応じることとなつた。)。このことは、その頃会社が従業員の父兄あて発送した文書からもこれを窺うことができる。このような会社の組合に対する態度からすれば、組合の中心的活動家である申請人が会社から嫌悪されていたことは十分考えられるところである。

而して、前記教宣部情報「便所の悪臭を消せ!」には職場の中にも及ぶ便所の悪臭を何とかせよ、夜勤の臭い風呂はもうごめんだ、組合員である守衛を非組合とする会社の攻撃に抗議しよう等専ら職場設備の改善要求、組合員の団結強化の文言が記載されてあるのみで、濫りに会社を非難し会社秩序を乱すような内容のものではなく、また教宣部情報「日本原水協の旗のもと」は労働者として重大関心事である原水爆禁止運動について啓蒙をはかる趣旨の文書であり、いずれも正当な組合運動の一環としての文書である上総評大繊連東邦紡績労働組合教宣部と発行責任者が明示されている。従つて、申請人としては、前記会社の退職勧告に応ずる理由はなく、会社の組合攻撃ならびに組合活動に対する不当介入に抗議しその反省を促そうとしたところ、本件解雇を受けるに至つたものである。このように前記情報の作成配布行為はいずれも正当な組合活動であるのに、会社は右配布行為を理由として懲戒解雇の挙に出たのであつて、前記申請人の組合経歴、会社の組合に対する態度などのほか事案の軽微性をも考え合せると、本件解雇は、会社が、申請人の正当な組合活動を嫌悪し些細なビラ配布に因縁をつけ申請人を企業から排除し組合活動に介入する意図の下になしたものであることは明らかである。従つて、本件解雇は不当労働行為に該当し、無効である。

(二)  就業規則違反

会社就業規則第六八条第八号、第六九条第一三号は次の如く規定している。

第六八条 (出勤停止および減給)

従業員で次の各号の一に該当する者は出勤停止又減給の処分を受ける。

8、濫りに会社を非難し又は事実無根の言動を弄し、会社の秩序を乱した者

第六九条 (懲戒解雇)

従業員で次の各号の一に該当する者は懲戒解雇の処分を受ける。

13、予め会社の了解がなくて工場又は工場附属物に伝単を掲示し又は撒布した者

会社は、申請人の前記情報配布行為が右条項に該当するとして本件解雇をなしたものであるが、前記のように、右情報は理由なく会社を非難するものではなく、労働者の権利としての職場の改善、組合員の団結を各組合員に訴える趣旨の文書であり、かつ正当な組合文書であることが明らかであつて、申請人の所為は何ら前記就業規則の各条項に該当しない。従つて、本件解雇は無効である。

(三)  解雇権の濫用

かりに以上の理由が容認されないとしても、本件のような一、二回のビラ配布の事実を取上げて、労働者の労働権、生活権を奪いかつその名誉を蹂りんする懲戒解雇に処することは、まさに解雇権の濫用であつて無効といわなければならない。

四、仮処分の必要性

右のとおり、本件解雇は無効であるから、申請人は、会社に対し、従業員たる地位確認の本訴を提起すべく準備中であるが、会社は、本件解雇後、申請人を従業員として取扱わず、職場への立入はもとより組合員としての活動すらも妨害し、その上後記のように第二次解雇処分をもなしており、さらに申請人においては本件解雇当時は組合専従者として会社、組合間の専従者協定に基き賃金の支払を受けていなかつたが、昭和三九年七月二六日組合専従者としての地位を解かれたので、右協定に基き同月二七日以後専従前の職場に復帰して会社から賃金(本件解雇当時申請人の受けるべき一ケ月当りの平均賃金は一八、五〇七円である。また会社の賃金支給日は毎月二八日で前月二一日からその月の二〇日までの賃金を支払つている。)の支払を受くべきであるのに、本件解雇を理由にこれを拒否しているため、生活に窮している現状にある。尤も、申請人は会社から昭和三九年七月中及び八月においてそれぞれ金一三、〇〇〇円あてを受領しているので、前者については昭和三九年七月二七日から同年八月二六日までの、後者については同月二七日から同年九月二六日までの賃金の内金に充当すると、結局会社は申請人に対し、右二ケ月分については前記手切賃金との差額合計金一一、〇一四円及び昭和三九年九月二七日以降の賃金を支払つていないこととなる。そこで、申請の趣旨のような裁判を求めるため本申請に及んだ。

第二、被申請人の主張に対する反論

一、被申請人の主張一について

被申請人主張のように守衛勤務者を非組合員の範囲に含めることについての申入が会社から組合になされたことは認める。しかし、右問題について、組合ではその機関である大会はもとより、執行委員会の決議をも経ていないものであつて、会社はこのことを知りながら、組合の松本委員長一人と交渉しその調印を得ているもので、およそ、組合員の範囲を決めるような重要問題について、一度も執行委員会にかけることなく執行委員長が独断で交渉し調印するということは正常な組合運営ならびに労使間の交渉形態では考えられないばかりか、その協定書は書面上の作成年月日は昭和三九年二月一七日附であるが、実際に調印されたのは二月二三日である。組合規約第一二条にも大会付議事項として「労働協約その他重要な労働条件の改訂」(第一項第三号)が挙げられており、非組合員の範囲に関する協定の締結はこれに該当する(少くても第九号の「その他重要な事項」に該当する。)。かりにそうでないとしても、組合において大会につぐ決議機関である執行委員会の附議事項というべきであつて、執行委員長が独断専行すべき事項ではない(従来会社、組合間の重要事項の交渉については、組合側からは三役を含む多数の者が出席していた。)。

ところで、被申請人は、申請人の第一回のビラ配布を目して、会社、組合間で合意に達した事項について会社を非難中傷したと主張する。しかし、前記経過から明らかなように、二月二〇日当時、会社、組合間には、守衛の非組合員化について何ら合意はできていなかつたのである。しかも申請人が配布したビラは非組合員の範囲等の問題についての組合員啓蒙の文書であつて、会社を中傷するような内容のものではない。組合員の範囲の問題は、組合としても団結権に関連し、また非組合員とされる個々の労働者にとつても、団結権、争議権等基本的権利に関連し、ともに重要な問題であり、これにつき啓蒙のためのビラを配布することは組合執行委員の職務である。従つて、これにつき統制違反を云々される理由はない(本件においては、組合内部において本件ビラの作成配布が組合の意思に反する旨の決定がなされた事実はない。)。また、被申請人は、申請人が、三月一日配布したビラについて、それが政治的なビラであり、統制違反のビラであると主張する。しかし、原水禁平和運動が政治運動でないことは多言を要しないところであり、また政治信条は自由であるし、労働組合運動が経済問題に限定される理由はない。さらに統制違反の問題は組合内部のことであつて会社が関与介入すべき問題ではない。

次に、本件ビラ(第一、二回とも)の配布先は寮(女子工員用)および更衣室、喫煙室(男子工員用)であるが、右場所はいずれも会社が労働力を生産のため組織化し、または秩序維持の権限を発揮する場所ではない。すなわち、寮は労働基準法第一〇章の規制を受ける寄宿舎であつて、就業規則の効力を及ぼすべき場所ではなく、更衣室、喫煙室も労働者が休憩時間に使用する場所であつて生産現場ではないのである。就業規則第六九条第一三号にいう「工場又は工場附属物」とは職場秩序維持に関連する事業場に限定されるものと解すべきであり、前記寄宿舎等はこれに含まれない。そこで職場秩序の問題は起らないのであつて、単に会社の建造物に対する管理権限が守られればよいのである。そして、本件ビラ配布によつて会社の建物管理権が侵害されたとみることも困難である。従つて、本件ビラ配布行為は、組合文書である点を度外視しても、何ら就業規則に違反するものではない。

また、被申請人は、本件ビラが会社、組合間の信頼協力関係を破壊し両者の離間を策するものと主張するが、会社と組合との間には経営者と労働者という対立関係は当然前提とされているものであり、また年少の女子工員が多数を占め、低劣な労働条件、労働環境に置かれている組合としては、絶えず労働者としての自覚とその権利の擁護、地位の向上に努力するのは当然のことである。かかる組合活動をもつて会社と組合との離間を策するものと受けとるのであれば、それは会社が組合の御用化を絶えず策しているからにほかならない。

二、被申請人の主張二について

(一)  申請人が昭和三九年八月三〇日の組合大会において被申請人主張のような理由で除名処分を受けたこと、これを理由に、会社が、同年九月二日、申請人に対し、昭和三七年六月二七日付協定書第三条を適用し、同年八月三一日付で解雇する旨の意思表示をなしたことは認めるが、その余はすべて争う。

(二)  そして、右解雇の意思表示は、次のとおり無効である。

(1) 本件除名処分は、次のように無効であるから、これを理由とする解雇も無効である。

(イ) (除名理由の不存在)処分理由(1)は事実の歪曲も甚だしい。すなわち、申請人に対する第一次解雇がなされて後、執行委員会の指示に基き、申請人は大繊連堀書記とともに民主法律協会所属の片山弁護士を訪れ相談したところ、資料として組合関係書類を持つて来るように云われた。その後執行委員会で法廷斗争を進めることが決定され、申請人は直鍋副委員長とともに事件依頼のため右協会を訪れたところ、担当弁護士が決定次第連絡するからその際は関係書類一切を持参するよう指示を受け、直鍋副委員長ともどもこれを了承し、昭和三九年七月初旬平山弁護士に対し事件依頼とともに手渡したのである。このように、組合関係書類は、申請人が独断でこれを持ち去り、またその返還に応じないというものではないのであり、申請人は、事務引継に際しても、弁護士の方が不要となれば持ち帰る旨約していた。その後、申請人は、右約束に基く報告を行うため、再三委員長および副委員長に面会を求めたが、同人らがむしろ会うことを避けていたのであつて、再三の督促など受けたことはない。処分理由(2)(イ)について。七月二六日の組合大会の経過およびその後行われた職場集会の目的、性格は後に述べるとおりである。要するに右職場集会は多数組合員の自主的意思に基いて開かれたもので、申請人の煽動、指導によるものではない。またそれは一部組合幹部による反民主的な組合運営に向けられたものであり、しかも休憩時間中安全塔広場を使用して行われていたのであつて、会社としてもこれを干渉すべき性質のものではない。それにも拘らず、会社は、申請人の会社内への立入を阻止するというような理由で介入し、挑発行為を行つたため、七月三〇日以降八月二日にわたる紛争をひき起すとともに、引続き一七名に及ぶ良心的組合活動家を解雇したのである。処分理由(2)(ロ)について。申請人は、七月三〇日開催の執行委員会には、委員長の意見を聞きたいと思い、吉留美智子とともに出席した。ところが、委員長は申請人らを見るや直ちに今日は流会だとどなり、自ら部屋を出て行つた。しばらくして委員長は大繊連の片本書記長を同道して入室したが、ともども申請人らに対し「権利がない」とわめき、委員長は「勝手にせい」と云いながら再度自ら部屋を出て行きそのまま執行委員会を聞かなかつた。従つて、右執行委員会が流会するに至つたのは、委員長自らその主宰を放棄した結果によるもので、申請人らがその開催を阻止したものではない。また、その後八月五日まで執行委員会が開かれなかつたのは、多数組合員による臨時大会開催の要求がなされ、職場集会等において一部幹部に対する非難が極めて強かつた等の事情から、委員長自ら組合員の右要求を無視するためあえて委員会の開催を行わなかつたのがその直相である。処分理由(2)、(ハ)は事実無根のことである。以上要するに、申請人に対する除名理由はいずれも事実の歪曲または事実に対する独自の評価に基くもので、組合規約第二七条の懲戒事由に該当しない。

(ロ) (憲法違反等)前記のように、会社は組合結成以来民青同の非難中傷とその組合支配を強調し、養成工教育においても労働学校サークル活動を民青同ときめつける等民青同の排除を口実に一層組合活動への介入を強化していたが、昭和三八年末頃からは職場のしめつけ寮生活に対する干渉が露骨となり、特に昭和三九年春斗を通じて右傾向は激化した。すなわち、昭和三九年三月一八日従業員を混打褞室に集め、社長自ら申請人らの解雇を公言するとともに組合活動を誹謗し、同月二一日には労務課長が申請外宮園久美子を呼び出し「サークルのリーダーは君か」、「民青に入つているか」等思想調査を行い、また五月一三日には一方的に通達を発し従前の慣行を無視して寄宿舎生活自由の原則に対する挑戦をなした。一方組合内部においては、一部幹部の間に、四・一七問題を契機として組合内部から共産党員とその同調者を排除しようとする労働運動一般の傾向に便乗し、申請人を含む活動家の排除をはかる動きが表れて来た。このような動きは、前記のような会社側の意図と目的を一にするものであり、両者は必然的に手を握りあうようになつた。このことは後記第一次解雇後の経過から十分窺い得るところである。以上の諸点に徴すれば、本件除名処分は一部の組合幹部が会社と通じ、申請人の思想、信条を理由に、申請人を組合から排除し、さらに会社の解雇を容易にする意図のもとになしたものとみるべきであり、憲法第一九条、第二一条、組合規約第五条に違反し無効である。

(ハ) (統制権の濫用)労働組合の統制機能は、団結権に基礎をおくものではあるが、団結権を強固にするということ一般に作用するものではなく、本来の労働組合活動を否定するような反組合的言動、団結破壊行為に対してのみ発動されるものである。従つて、単なる主義、主張の相違とか組合運動方針の是非等はその機能の範囲外にあるものと解される。しかるに、本件除名処分は、一部組合幹部が反組合的言動の名のもとに、申請人の本来的労働組合運動を弾圧する意図を有するところから導かれたもので、労働組合本来の統制権の行使とは異質的なものである。そしてユニオンシヨツプ協定が存在する場合の除名処分が著しく苛酷なものであることを考え合せれば、本件除名処分は組合の統制権の著しい濫用にわたるものといわなければならない。

(2) 本件第二次解雇は、次のように、会社が一部組合幹部と結託し、ユニオンシヨツプ条項を利用してなした不当労働行為であり無効である。

申請人および吉留美智子に対する第一次解雇について、組合は直ちに執行委員会を開いて討議した結集、これを不当労働行為であるとし、解雇反対斗争を行う方針を決定し、まず抗議文等を会社へ提出した。さらに組合は解雇反対斗争を賃上、民主化斗争とともに春斗の一環としてとりあげることとし、四月末にはスト権が確立された。そして、六月中旬には賃金斗争を妥結するに当つて班別大会が開催され、それまで進展の認められなかつた民主化斗争および解雇反対斗争については、これを継続することとし、解雇反対斗争については法廷斗争をも併行的に行うことが圧倒的多数で決定された。ところが大繊連片本書記長および組合松本委員長らは右のような解雇反対斗争を自然消滅させようとする動きをするようになり、本件解雇後大繊連内に設置された対策委員会で条件斗争的な提案すなわち申請人が労使間の取決めを覆したこと(そのこと自体事実に反するものである)について非を認めてはどうかとの提案をなした。かくて四月末頃からは解雇反対を議題とする団体交渉は自然行われないようになつた。そして、七月二六日大繊連を解体し日本繊維労連に一括加盟する勧告に関する討議を行うため組合臨時大会が開催されたところ、一組合員から、緊急動議として、申請人および吉留美智子の解雇反対斗争打切り、無期限権利停止の議題が提出された。右提案の理由は、反対斗争を継続することは組合財政からみて困難であり、また組合は被解雇者のため苦しい斗争をしているのに、本人達は何の反省もなく政治活動を行つているというものであつた。しかし、このようなことは、従来組合機関においてはもとより(臨時大会付議事項を審議するため開かれた執行委員会でも右議案以外のものが臨時大会に提案されるような話はなかつた。)、組合員間においても問題とされていなかつたことである。右提案は一組合員の緊急動議としてなされたが、その実質は一部組合役員により事前に提案が準備され、不意打的に提案されたことは明らかである。そして大会での議事の進め方も反対意見の発表は極力これを押え採決を強行する気構であつた。そして委任状については、書記局で一括掌理し議決に際してはこれを行使しないのが従来の慣習であつたが、右大会では松本委員長らが意識的にこれを収集していたことから、投票前に話合がなされ、委任状は行使しないことになつたのに、投票にかかると、委員長らは右話合を無視して一一票の委任状を男子組合員に配布して行使させ、その結果九票の差で緊急動議が可決された。このような経過からみれば、右臨時大会の決議は大繊連片本書記長、組合松本委員長らにより、良心的組合活動家たる申請人らを組合から排除する意図のもとに、仕組まれた策謀であることは明らかである。

このように組合民主主義を踏みにじつた一部組合幹部の横暴に憤慨した組合員は、大会終了後直ちに討議を行い、このような重要議案については下部討議を深めた上で大会にかけるべきであること、票決に際し議題に組織問題との関連で混乱があつたこと、委任状行使等投票方法が不当であること等の理由で、同一議題討議のため大会の再開を要求する署名を実施することとなつた。そして、一五〇数名という組合規約上の定数(三分の一)をはるかにこえる多数の署名が集められ、直ちにこれを松本委員長に提出して大会の開催を要求した。しかるに松本委員長は、趣旨が明確でない等理由にもならないことを理由とし、大会開催の意思のないことを表明した。そのため七月二八日から連日早番である乙班の休憩時間すなわち午前七時から七時四五までの間、民主的大会の開催、解雇撤回を要求する職場集会が開催されることとなつたのである。

ところが、会社は右集会に対し無届を理由にその不当性を主張し、集会の開催を実力で阻止する態度をとり、遂には寮の自治を蹂りんして深夜寮内に立入り、さらには寮生の外出等までも阻止する暴挙をなした。そして、集会に参加する組合員一人一人を作業中労務室に呼び出し、処分をちらつかせながら組合活動からの脱落と始末書の提出を強要し、八月三日には自治会長を含む三名を、八月四日には自治会役員等四名をそれぞれ無許可集会を行つたことなどの理由で懲戒解雇した。右の如き会社の切崩工作は八月三〇日の臨時大会の頃まで継続され、会社の要求に応じなかつた者については解雇減給等苛酷な処分がなされた。一方、この間松本委員長は組合員の代表と会うにも会社事務所で会社の庇護を受け、さらに副委員長ともども、前記の如く会社から始末書の作成を要求された組合員に対する切崩工作に積極的に参画していた。

以上の経過を経て八月三〇日臨時大会で本件除名処分がなされ、これに基いて申請人に対する第二次解雇がなされたものであるが、前記のような解雇反対斗争の過程における一部組合幹部の行動、会社側の態度等に照して考えれば、本件第二次解雇は、会社が一部組合幹部と結託し、ユニオンシヨツプ条項を利用してなした不当労働行為にあたり、無効であるといわなければならない。

(3) 申請人に対する前記除名処分は、以上に述べたように会社の第一次解雇に関し、当初解雇反対斗争を推進して来た組合が、その後会社の申請人を組合から排除しようとしてした組合への介入とこれに迎合する一部幹部に牛耳られてなしたものであり、会社の無法な第一次解雇に基因するものであるからこれを理由としてさらに解雇することは、正しくクリーンハンドの原則に反するし、労使間の信義誠実の原則にも反する。この点において第二次解雇は無効である。

(4) 会社は、第二次解雇に際し、労働基準法上の解雇予告をなしておらず、また予告手当の提供もなしていないので、解雇は無効である。

被申請人訴訟代理人は、「本件申請を棄却する。訴訟費用は申請人の負担とする。」との裁判を求め、申請の理由に対する答弁、被申請人の主張を次のとおり述べた。

第一、申請の理由に対する答弁

一、申請の理由一は認める。

二、申請の理由二のうち、ビラ「便所の悪臭を消せ!」の作成者が組合教宣部であるとの点、組合活動の一環として同ビラを配布したとの点は否認する。その余の事実は認める。なお、申請人が右ビラを配布したのは昭和三九年二月二〇日頃である。

三、申請の理由三、(一)のうち、昭和三六年一〇月三〇日会社に女子組合が結成されたこと(但し参加女子工員数は不知)、その後昭和三七年四月に男子組合が結成されたことから、女子組合がこれと合併することとなり、同年六月一七日組合が結成されたこと、会社と組合との間に主張のような諸協定が締結されていること、申請人が主張のような組合役職にあつたことは認める。その余の事実は否認する。

四、申請の理由三(二)および(三)の各主張は争う。なお就業規則の引用部分は認める。

五、申請の理由四について、申請人が従前組合の専従者として会社から賃金の支払を受けていなかつたこと、本件解雇後会社が申請人に主張のような金員の支払をなしていること、会社の賃金支払日が毎月二八日で前月二一日からその月の二〇日までの賃金を支払つていることは認める。申請人が昭和三九年七月二六日組合専従を解かれたとの点は不知。申請人の賃金額の主張および仮処分の必要性は争う。

第二、被申請人の主張

一、本件解雇の有効性

(一)  従来会社と組合との間の協定書では、守衛勤務者は非組合員の範囲から外されており、昭和三八年末頃の実情としては、会社の守衛勤務者は組合員(三名)と非組合員(一名)に分れていた。しかし、もともと守衛の職務は組合員の地位と両立し難いものである上、非組合員である他の守衛勤務者との待遇のバランスや一般組合員との就労条件の相違についても看過し得ないものがあつたので、会社は同年一二月一二日組合に対し守衛勤務者を非組合員の範囲に含めるよう協定書の改定を口頭で申入れた。これに対し組合から「本人が納得すれば、組合は守衛を非組合員化することに反対しない」との回答があつたので、会社はその頃から各個人に説明し、その希望を聞くとともに了解を得ることにした。三名の組合員守衛のうち、木戸守夫は本人の希望で水気係に配転し、小松美代子は受付係に替え、木村芳雄のみ主として賃金等について若干の交渉の後、昭和三九年二月一〇日会社と同人との間に非組合員として守衛勤務に服することについて諒解が成立した。そこで会社は、同月一二日付文書で協定書の改訂につき正式に組合に申入れた。組合からは改訂に同意する旨回答があつたので、会社は同月一七日付で改訂に関する協定書二部を作成の上委員長に手交してその調印を求めた。委員長は、書記長である申請人に調印を命じてあるから改訂の協定書を届けると言明した。

(二)  ところが、申請人は調印事務を延引する一方、申請外吉留美智子とともに、昭和三九年二月二〇日頃、ビラ「便所の悪臭を消せ!」を作成の上、寮、更衣室、喫煙室に配布したのである。その主たる内容は、会社が組合団結の弱化をはかるため、守衛の組合員に対して非組合員にする攻撃を加えて来ているというものであり、紙幅の殆んどすべてをあげて強調力説し、会社を非難、中傷している。しかしながら、守衛非組合員化の問題は、前記(一)のとおり既に組合と再三折衝を重ね双方合意に達し、一応解決を見ていたところであり、右ビラの内容はその経過を全く無視したものである。そこで、会社は、ビラ配布直後の二月二四日、組合に対し、文書で、その不信行為に対し抗議するとともに、ビラ配布の責任関係を照会した。組合は、本件ビラ配布は、全く組合不知のうちに、申請人らの独断で行われたもので、統制違反であるとの回答を寄せ、併せて今後かかる独断専行のビラ配布を再度繰り返さない旨確約し、申請人らに対し寛大な処分を求めて来た。ところが、その後間もない同年三月一日頃情報「日本原水協の旗のもと」を作成し寮内その他に配布した。これは専ら原水禁運動に関して、共産党系の運動を支持し、他方総評、社会党系の原水禁平和運動を分裂行動として非難攻撃する内容のもので、労働者の経済斗争と関係のない政治的なビラである。そして、三月二日組合に対し照会したところ、これも統制違反のビラ配布であることが判明した。

(三)  従来会社は組合ビラの配布については、それが正当な組合活動の一環である限り、その内容が会社に不利益なものであつても、これに介入することを慎しんで来た。しかし、本件第一回のビラの内容は、徒らに会社を非難、中傷し、会社と組合との間の信頼協力関係を根本から破壊し、両者の離間を策する悪質なものであつて、本来の組合活動の趣旨を逸脱しているものである。しかも、申請人は、自ら組合の要職にあり、会社組合間の交渉経過に触れているにも拘らず、これを無視して右ビラを配布し、職場に混乱を捲き起し、さらにこれにつき会社が組合に抗議したことを知りながら、何ら反省せず、再度統制違反のビラを配布したのである。会社としても申請人の所為を看過し難く、三月一八日社長から申請人にビラ配布の際の事情を聞いたが、申請人はいささかも反省するところがなかつた。そこで、会社は、申請人の所為が就業規則第六九条第一三号、同第一七号の懲戒解雇事由に該当するものとして解雇することとし、これに先立ち翌一九日申請人に対し退職を勧告したが応じなかつたので、同月二三日本件解雇をなした。

二、予備的解雇の主張

かりに、本件解雇が無効であるとすれば、被申請人は次のように主張する。

(一)  かねて、申請人のあまりにも共産党、民青同に偏向した政治活動については、一般組合員の間にかなり批判的な動きがみられたが、本件解雇の前後から一般組合員と申請人らとの対立の溝は深まり、その分派的行動に対して組合民主主義の立場から非難の声が強くなり、昭和三九年七月二六日には、組合は多数で申請人および吉留美智子の組合員としての権利享有を無期限停止した。続いて、同年八月三〇日開催の臨時大会では、二〇二名の組合員が出席して、右両名の除名に関する案件が審議され、賛成一四九票、反対五〇票、棄権三票で除名処分が決議された。

(二)  会社は、翌八月三一日組合より除名処分の通知を受けたが、会社、組合間の協定では組合を除名された従業員は解雇する旨の取決め(昭和三七年六月二六日付協定書第三条)がなされているので、会社は早速除名事由を組合に照会したところ、申請人に対する除名事由は次のとおりであることが判明した。(1)申請人は、昭和三九年七月二六日組合から無期限権利停止処分を受けて後、八月三〇日に至るまで書記長、専従者の業務を後任者に引継がない。すなわち、後任者である真鍋副委員長は七月二八日申請人に事務引継を申入れ、申請人は「八月一日に関係書類を渡す」旨約束しながらこれを履行していない。関係書類には協約、協定書綴、会社との往復文書などが含まれ、これらは組合では最も重要な書類である。(2)申請人は統制違反を重ねている。すなわち、申請人は吉留美智子とともに、(イ)申請人らの解雇反対斗争を打切るとの七月二六日付大会決議を非難、中傷し、一部組合員を煽動して連日集団示威運動を指導し、不法侵入や器物破損を惹き起し、また解雇犠牲者一七名を出した。(ロ)七月三〇日開催の執行委員会に、権利停止中で参加資格がないのに強行参加しようとし、そのため同執行委員会は流会した。その後も執拗に妨害行為を繰り返し、八月五日まで執行委員会の機能を麻痺させた。(ハ)その他事実無根のビラを配布して組合、所属上部組織を非難、中傷するなど組合員としての義務に反する行為を繰返している。(3)以上は組合規約第二七条に該当し、同条第二八条第三号の除名が相当である。

(三)  右により、会社は、同年九月二日、申請人に対し、本件第一次解雇がその効力を有しない場合に備えて念のため、同年八月三一日付で右除名を理由に解雇する旨の意思表示をなした(なお、予告手当、退職金等については、金額計算の上、同年九月八日、同年七月二九日以降八月三一日までの未清算賃金一七、八六四円、解雇予告手当一三、五八六円、退職金七九、〇一〇円合計一一〇、四六〇円中、八月三一日支給した一三、二四〇円を未清算賃金から控除した残額九七、三二〇円の支払をなすべく提供したところ、申請人はその受領を拒否した。)。従つて、本件申請は却下さるべきである。

(疏明省略)

理由

一、第一次解雇について

会社が、肩書地に本社および工場を有し、女子工員約二五〇名、男子工員約二〇名を雇傭して紡績業を営んでいること、申請人が、昭和三二年三月会社に入社し、その従業員であつたこと、会社が、昭和三九年三月二三日、申請人に対し、懲戒解雇する旨の意思表示をなしたこと、右解雇は、申請人が同年二月二〇日頃「便所の悪臭を消せ!」と題するビラを作成しこれを会社の寮(女子工員用)および更衣室、喫煙室(いずれも男子工員用)に配布したことについて、その内容が濫りに会社を非難し会社の秩序を乱すもので、申請人の所為は就業規則上の懲戒解雇事由に該当するところ、申請人は何ら反省せず同年三月一日頃再び「日本原水協の旗のもと」と題するビラを作成配布したことを理由とするものであることは当事者間に争いがない。

二、第一次解雇の当否

まず、本件解雇が被申請人主張の就業規則上の懲戒規定に該当する事由に基いてなされたものであるか否かの点について検討する。

(一)  懲戒規定

最初に、懲戒規定の内容をみるに、会社就業規則第六九条第一三号に、従業員の懲戒解雇に関し、

第六九条 (懲戒解雇)

従業員で次の各号の一に該当する者は懲戒解雇の処分を受ける。

13、予め会社の了解がなくて工場又は工場附属物に伝単を掲示し又は撒布した者

と規定されていることは当事者間に争いがなく、また成立に争いのない甲第二号証によれば、同条第一七号は

17、その他各号に準ずる背信行為のあつた者

を懲戒解雇する旨定めていることが認められる。

(二)  ビラ作成配布およびその内容

次に、申請人が、昭和三九年二月二〇日頃、「便所の悪臭を消せ!」と題するビラを作成し、これを会社の女子工員寮および男子工員用更衣室、喫煙室に配布し、さらに同年三月一日頃に、「日本原水協の旗のもと」と題するビラを作成し、右同様の場所に配布したことは当事者に争いがない。そして、申請人本人尋問の結果および弁論の全趣旨により成立の認められる甲第三、第四号証によれば、右作成、配布にかかるビラの内容は、別紙(一)、(二)のとおりであつたことが認められる。

(三)  ビラ「便所の悪臭を消せ!」配布の動機

ところで、成立に争いのない甲第一号証、乙第一、第三号証、証人中村俊郎の証言により成立の認められる乙第二号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第五号証、証人中村俊郎、同松本栄一の各証言、申請人本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、申請人が前記のようにビラ「便所の悪臭を消せ!」を作成、配布するに至つたのは、次のような事情によるものと認められる。

会社には、昭和三八年末頃、男子三名、女子一名の守衛が雇傭されていたところ、会社、組合間の協定では、守衛長(男子)については、これを非組合員とする旨の取決めがなされていたが、その余の守衛については、その組合員資格に関する協約上の規制はなされておらず、従つて、これらの守衛は従前から組合に加入していた。しかし、守衛勤務者中に組合員である者とそうでない者があることは、賃金、勤務時間の調整上困難な場合があり、また守衛が組合に所属していることは、争議状態が発生した場合、会社施設の看守、保安に支障を生じる(当時会社、組合間にはこの点についての特段の取決めはなされていなかつた)ことも予測されたことから、会社は、この際守衛勤務者全員を非組合員とするのが妥当であると判断し、昭和三八年一二月一〇日頃、会社の労務担当者から組合松本委員長に対し、この点に関する協約の改訂を申し入れた。これに対し、松本委員長は、組合としては本人が了解すれば特に反対しない、本人に対する了解工作は会社の方で直接行つて貰いたい旨回答した。これにより会社は各守衛勤務者に対する了解工作に着手したが、労務担当者において各本人の意向を尋ねたところ、三名の組合員守衛のうち、木戸守夫は現場勤務を希望したことから、会社は同人を現場に配置転換することとし、女子の小松美代子は従前から寄宿舎担当の守衛で職務の性格も他の守衛と異つており、また本人の希望もあつたことから、その職名を受付係と変更することとした。その結果、非組合員化の交渉の対象となるのは、他の一人の守衛である木村芳雄のみとなつたことから、会社は同人に対する説得を進めたが、昭和三九年二月はじめ頃同人から非組合員となつた後の待遇についての希望申出があり、会社もこれを了承した結果、同月一〇日頃、両者間に非組合員として守衛勤務に服する旨の合意が成立するに至つた。これに基き、会社は、同月一二日付文書で正式に組合に対し守衛勤務者をすべて非組合員とすることを主たる内容とする協約改訂についての申入をなした。ところで、組合では従前から少数の男子組合員の発言が強く、組合員の大部分を占める女子組合員の意向が組合運営に十分反映されない傾向がみられたが、この傾向は執行部内でもみられ、日常会社側との交渉に際しても、男子役員たる松本委員長がその判断でこれにあたることが多かつた。前記会社の申入にかかる守衛勤務者の非組合員化の問題についても、松本委員長は組合内部でこれを討議することもせず、その判断で会社に対し前記回答をなしたものである。申請人は組合書記長でありまた組合専従者であつたが、かねて松本委員長の独断的な行動を快く思つていなかつたところ、二月一二日付文書で会社から協約改訂の申入がなされるに及んで前記守衛非組合員化の交渉が行われていることを知り、松本委員長がこれを独断専行したことについて強く憤慨したことから、同月一七日会社から届けられた協定改訂書に調印するよう委員長から指示されたにも拘らずその調印事務を延引する一方、同月二〇日頃、組合教宣部情報用紙を使用して前記ビラ「便所の悪臭を消せ!」を作成し、これを組合員に配布するに至つた。なお、右協定改訂書の調印は同月二三日真鍋副委員長においてこれをなした上会社へ提出し、また会社、組合間において、同日付で、前記木村芳雄の身分保障、労働条件の確保に関する覚書も作成された。

右認定に反する証人松本栄一の証言部分は、申請人本人尋問の結果および弁論の全趣旨に照して信用し難く、他に右認定を左右するに足りる疏明は存しない。

(四)  第一次解雇の経過およびビラ配布についての慣行

成立に争いのない甲第五号証、証人松本栄一の証言、被申請人代表者尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、第一次解雇の経過として、会社は前記ビラ「便所の悪臭を消せ!」が配布された直後これを入手したが、その内容が前記守衛の非組合員化に関するもので、しかも会社、組合間の交渉で円満解決したものと判断していた右問題につき会社を非難攻撃している点を重視し、会社河村社長において組合松本委員長を呼び出し右ビラ配布について追及したところ、松本委員長は右ビラ配布については関知していない旨言明したこと、そこで会社としては、同委員長にビラ配布の責任の所在について調査を求めるとともに、同月二四日には文書をもつて組合に対し右の点を明確にするよう正式に申し入れたところ、同月二六日松本委員長から前記ビラは申請人および申請外吉留美智子において作成、配布したとの回答がなされ、なお同委員長はその際今後はこのようなことのないようにするから今回は穏便に処理されたいとの希望申出をなしたこと、これにより会社はまず配布責任者である申請人らの書面による契約を求めることとし、委員長もこれを了承したが、申請人らにおいてこれを提出しようとせず、そのうち、同年三月一日頃前記のように申請人により第二回目のビラ配布がなされ、しかもその内容が原水爆禁止運動に関し日本原水協の運動方針を支持するものであつたことから、会社側は著しく態度を硬化させたこと、そして、その後河村社長において直接申請人らに面接しその反省を促したのに対し、申請人らがその非を認めようとしないばかりか会社の態度を非難したことから、会社は、就業規則違反を理由に申請人に対する本件解雇および申請外吉留美智子に対する解雇処分を決定するに至つたこと、なお、会社側としては、前記第一回目のビラ配布については、会社の許可を得ずにこれをなしたことにより、ビラの内容が会社、組合間の信頼関係を破壊する性質のものであるとしてこの点を重視していたものであることが認められ、また申請人本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、組合においては日常組合員に対する啓蒙宣伝を行うため組合教宣部から「情報」と題する機関紙を発行し組合員に配布しているところ、その作成配布については、かねて組合専従者である申請人が主としてその任にあたつており、またその記載内容も一々執行委員会の討議を経て掲載するようなことはせず、申請人においてその判断で決定した上これを作成していたものであること、従前から、会社は、右情報の作成、配布については、その配布が主として寄宿舎、更衣室、喫煙室等直接会社の業務に支障を来たさない場所で行われていたこともあつて、特にこれに干渉することもなく、就業規則には前記のようにビラ配布について会社の許可を得ることとされてはいるものの、右場所における組合情報の配布に関する限り、特別に会社の許可を得ることをせず、適宜その配布が行われていたことが認められる。

(五)  就業規則該当性の検討

以上認定の事実関係に基き、申請人の所為が前記懲戒解雇事由に該当するものであるか否かの点を検討する。

まず、被申請人訴訟代理人は、本件各ビラはいずれも組合文書ではない旨主張するので、この点をみるに、前記のように申請人は組合専従者として従前から組合情報の作成配布を行つていたものであり、本件で二回にわたり配布したビラも、通常の場合と同様に組合情報用紙を使用し、組合教宣部発行の機関紙として作成配布したものであるから、それが一応組合文書としての形態を有するものであることは否定し難いところである。勿論外形的に組合文書の形態を具備している文書であつても、発行者が組合活動としての立場をはなれて個人的意見の宣伝を行い、また単に会社または個人の信用、名誉を毀損する目的のためにこれを作成するなどの場合も考えられるところであり、このような場合には組合文書としての法的保護を受け得ないものと解されるが、発行者にそのような主観的意図を有するが故に直ちに当該文書が組合文書としての外形、性格まで失うものとみるのは相当でなく、これらの点は組合文書としての正当性を評価する場合の事情として考慮さるべきものであると考える。

そこで、本件各ビラについて、それが正当な組合文書と認め得るか否かの点に立ち入つて考えるに、申請人が第一回目のビラ「便所の悪臭を消せ!」を作成した動機は、前記のように組合委員長が、守衛組合員の非組合員化という組合にとつて重大な問題(成立に争いのない甲第二三号証によれば、組合規約には大会付議事項として「労働協約その他重要な労働条件の改訂」(第一二条(一)3)が挙げられており、また成立に争いのない甲第一号証によれば、右守衛の非組合員化には労働協約の改訂を要するものであることが認められる。)について、執行委員会における討議を経ることなくその一存で会社側に了解を与えたことに憤慨したことによるものであり、根拠もなく会社を非難、中傷する目的でこれを作成したものとは認められないので、その動機としては組合の民主的運営、組合員の啓蒙という正当な組合活動を志向しているものと認められる。尤も前記のような右ビラの内容をみれば、守衛非組合員化の問題を会社の組合に対する攻撃であると強調し、また非組合員化が対象者である守衛の意思に反している旨記載するなど事実に反している部分も存し、若干穏当を欠く内容のものであることは否定できず、この点について非難は免れ得ないと思われるが、右の程度の誇張や事実に符合しない点を捉えて直ちに前記ビラの組合文書としての正当性を否定することは相当でないものというべきである。次に、申請人が三月一日頃配布したビラ「日本原水協の旗のもと」は、前記ビラの内容から明らかなように、原水爆禁止運動について組合員を啓蒙し、その認識を深めることを目的としたものと認められる。そして我国における原水爆禁止運動が多分に政治運動としての性格を有していることは否定し難いところであり、前記ビラの内容を考え合せれば、それが政治的な意図を有するビラであることも認めざるを得ない。しかし労働組合にも、それが特別な法的保護を受けないというだけで、政治活動の自由は認められるべきであるから、組合の発行するビラの内容が政治的であるということだけから、当該ビラの文書としての正当性まで否認するのは相当でないものと考える。なお、被申請人訴訟代理人は、右ビラが統制違反のビラである点を主張するが、もともと統制違反の点は組合内部で問責さるべき事柄であり、使用者としては、それにより企業の経営秩序が乱されるような場合でない限り、これに干渉することは許されないものと解されるところ、前記ビラの内容は、かりにそれが組合の方針に反しているとしても、会社の経営秩序に影響を及ぼす性質のものであるとは考えられないから、会社としては、たとえ情状的な観点からであつても、これを従業員に対する懲戒処分の理由とはなし得ないものといわなければならない。また、被申請人は、前記ビラ「便所の悪臭を消せ!」は会社、組合間の信頼協力関係を破壊することを意図するものであると主張する。なるほど、守衛の非組合員化の問題は、前記のように会社、組合委員長の交渉で一応合意に達し、正式に協定を改訂する段階にまで至つていたものであり、会社の立場からみる限り、申請人の所為は右合意の意義を没却するもので会社に対する背信行為と考えることも一応根拠のあることと思われるが(会社としては、組合委員長の意思表示がある限り、組合の意思もそのようなものと受けとるのが通常であり、組合委員長が独断で交渉し取決めた事柄であつても、組合としてこれを廃棄する手続をとらない限り、組合に対し一応拘束力をもつものというほかない。委員長に統制違反の所為があるとしても、それは組合内部で問責される事柄に過ぎない。)、前記認定の組合委員長の交渉態度の不当性や事案の重大性を考え合わせれば、申請人の所為が真の意味での労使間の信頼協力関係を破壊する程悪質なものであるということはできない。かようにして、本件各ビラはいずれも正当な組合文書としての性格を有するものとみるのが相当である。

ところで、組合ビラの作成、配布は、組合活動の手段として重要な役割を有するものであり、これについての組合の自主性も最大限度に保護されなければならない。従つて使用者が本来これに介入する権能を有しないことは明らかである。ただいわゆる企業内組合の場合、組合活動が必然的に使用者の施設内で行われるところから、使用者の経営秩序維持の要求、利益と衝突する場合は予測されるところであり、この場合、使用者が組合活動について経営秩序維持に必要な限度でこれを規制することは許容せざるを得ないから、組合ビラの作成、配布についても、使用者は就業規則等により右観点からする規制をなし得るものと考えられる。勿論右の場合においても前記原則は妥当とするものであり、使用者は当該ビラの配布が経営秩序に影響がなく、また若干影響があるとしても経営者として忍受すべき限度のものである場合には就業規則等を根拠にこれに介入することは許されないものといわなければならない。このような観点から考えれば、前記会社就業規則第六九条第一三号の規制の対象となるのは、会社の経営秩序を侵害し、またその怖れのある態様におけるビラ配布等に限定されるものと解すべく、そのような場合でない限り、かりに会社の許可を得ずに組合ビラを配布しても、これをもつて懲戒解雇の事由となすことは許されないものとみるべきである。そして右経営秩序侵害の有無の判断に際しては、当該ビラの内容、配布の場所、方法のほか、これについての従前の慣行が重視されなければならない。以下これを本件についてみるに、まずその内容としては、前記のように、申請人の配布したビラはいずれも正当な組合文書と認め得るものである。次に本件各ビラの配布場所は会社の寮、更衣室、喫煙室(それらが前記就業規則にいう「工場又は工場附属物」に含まれることは否定できない。)であるところ、寮は労働基準法第一〇章の規制を受ける寄宿舎であり、そこでは従業員の私生活の自由と自治が最大限度に尊重さるべく(労働基準法第九四条)、使用者としては施設管理上必要がある場合に限り、その限度における規制をなし得るに過ぎないものと解される性質の場所であつて、会社の経営秩序との関連性は極めて薄いものと考えられ、しかも組合ビラの配布によつて会社の施設管理に支障を来たすことは通常あり得ないことであり、本件においてもこれを侵害するような態様でビラ配布がなされたことを認めるに足りる疏明はなく、また更衣室、喫煙室は寮に比較すれば、経営秩序との関連性はより密接であるが、いずれも生産現場でないことからして、その場所でのビラ配布により経営秩序が侵害されることは比較的少いものと考えられ、なお、本件においてはそのような態様でビラ配布がなされたことを認めるに足りる疏明も存しないところである。また、本件におけるビラ配布の方法が特に会社秩序の維持に支障を来たすような性質のものであつたと認めるに足りる疏明もない。右の諸点に本件のような場所における組合情報の配布については、従前から慣行的に会社の許可を受けずになされていたことを考え合せれば、申請人が本件ビラの配布について会社の許可を受けなかつたとしても、申請人に前記就業規則第六九条第一三号の懲戒解雇事由にあたる非違があるものとは到底なし難いところである。

次に、本件が就業規則第六九条第一七号の規定を適用すべき場合に当るか否かの点をみるに、前記のように申請人は徒に会社を非難中傷する目的で本件ビラを配布したものではなく、ビラの内容も組合文書として許容される限界を超えないものであり、本件ビラ作成配布の所為は労使間の信頼協力関係を破壊する程悪質なものとは認められないところであるから、申請人に成立に争いのない甲第二号証によつて認められる就業規則第六九条の他の各号に準じる程の背信行為があつたものとはなし難いものというべく、右規定を本件解雇の根拠とすることは許されないものである。

(六)  第一次解雇の効力

右のとおりであるから、申請人の本件二回にわたるビラ配布の所為は就業規則上の懲戒解雇事由に該当せず、第一次解雇は、就業規則の解雇制限規定に違反してなされたものとみるべきであるから、申請人訴訟代理人のその余の主張について判断するまでもなく、無効なものと結論しなければならない。

三、第二次解雇について

申請人が、昭和三九年八月三〇日の組合大会において、被申請人主張のような理由で除名処分をうけたこと、これを理由に、会社が同年九月二日、申請人に対し、昭和三七年六月二六日付協定書に基き、昭和三九年八月三一日付で解雇する旨の意思表示をなしたことは当事者間に争いがない。そして成立に争いのない甲第一号証によれば、右協定書第三条は「会社は組合を除名された従業員及組合に加入しない従業員は原則として解雇する」旨定めていることが認められ、これによれば、右解雇はいわゆるユニオンシヨツプ協定に基く義務履行としてなされたことが明らかである。

四、第二次解雇の当否

そこで、第二次解雇の当否について判断する。まず、申請人訴訟代理人は、申請人に対する前記除名処分は無効であり、これを理由とする第二次解雇も無効であると主張するので、この点から検討することとする。

(一)  除名処分の効力

(1)  懲戒規定

成立に争いのない甲第二三号証によれば、組合規約第二七条は組合員に対する懲戒に関して規定しており、その第一号は「規約その他機関の決定に違反したとき」を、第三号は「その他組合の名誉を傷つけ統制を乱したとき」をそれぞれ懲戒事由に掲げ、また第二八条は懲戒処分の種類として戒告、権利停止、除名の三種を規定していることが認められる。

(2)  事務引継の懈怠(除名事由(1))について

申請人がかねて組合書記長として組合用務に専従していたこと、昭和三九年七月二六日組合大会において無期限停止の処分を受け組合員資格を停止されたこと、右権利停止処分後、後任者である真鍋副委員長に事務引継をなすに際し、会社との協定書、往復文書等を含む組合関係書類を引渡さなかつたことは当事者間に争いがない。ところで、申請人本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、申請人が右のように組合関係書類の引継をなさなかつたのは、右書類が申請人の本件地位保全等仮処分申請事件の証拠として提出するため担当弁護士の手許に持参してあり本件審理に必要な書類であるため、その返還を一時なさなかつたものであること、右のように申請人が組合関係書類を持ち出したのは、本件第一次解雇後組合内部で解雇反対斗争を進めることが決定され、その手段としていわゆる法廷斗争をも行うことが検討されていた段階で、事件を依頼した民主法律協会の担当弁護士の指示もあつたことから、組合委員長の了解を得た上これを担当弁護士に引渡したものであること、前記事務引継に際しては、副委員長から関係書類を持参するように云われ、必要なら取りに行くからと返答したもののその後さらに返還要求もなかつたことからそのまま放置していたことが認められる。この点についての証人松本栄一の証言および乙第一七号証の記載は申請人本人尋問の結果に照し信用し難く、他に右認定を左右するに足りる疏明は存しない。ところで、組合役員としての事務引継をなす以上関係書類等をも引渡すべきは当然であり、右のように申請人が結局関係書類を引渡さないままでいたことは(それが本件に必要な書類であつたとしても、一時担当弁護士の許から持帰ることは可能である。)組合員としての義務違反の誹を免れないものと思われる。しかし、当時組合において前記書類がないため特に組合運営に支障を来たしたと認めるに足りる疏明は存しないところであり、前記のように書類の持出については組合内部で了解を得ていること、またその所在場所も明確になされていること、申請人としても終局的にその返還を拒否しているものではないことなどの諸点を考え合わせれば、その義務違反の程度は、これに対し最も重い懲戒処分である除名をもつて臨まなければならない程重大なものであるとは考えられない。

(3)  統制違反(除名理由(2))について

まず、申請人が七月二六日付大会決議を非難中傷し一部組合員を煽動指導して集団示威運動をなさしめたとの点をみるに、成立に争いのない甲第二三、第三九号証、申請人本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、昭和三九年七月二六日、従来の大繊連を解体し各単組が繊維労連に直接加盟することについての繊維労連の勧告を審議するため組合臨時大会が開かれたが、同大会中所定の議事を終つた段階で、突如一組合員から申請人および申請外吉留美智子の解雇反対斗争を打切り両名を無期限権利停止処分に処することについての緊急動議が提出されたこと、その理由は、解雇反対斗争を継続することが組合財政上困難となつており、また解雇反対斗争中申請人らは組合員の信頼を裏切る行動をなしている、特に申請人は組合業務をおろそかにして特定政党の仕事に熱中しているというものであつたが、このような問題はそれまで組合内部で正式にとりあげられたことはなく、前記緊急動議が提出されることは大部分の組合員にとつて全く予想外のことであつたことから、議場は一時混乱するに至り喧騒のうちに審議が進められたこと、組合松本委員長はかねて申請人らとは思想傾向を異にし、申請人らの組合活動に対しても批判的態度をとることが多く、申請人らの解雇反対斗争を進めることについてもさほど熱意を示さなかつたところ、前記臨時大会に緊急動議が提出されることについてはこれを事前に知つており、自ら一一票の委任状を集めるなどしてその審議に備えていたこと、そして、従前大会の委任状については、組合規約にはこれに関する規定(第一一条)が存するものの、組合書記局において一括し、議決に際してはこれを行使しない取扱いがなされて来たところ、前記大会では右のように組合委員長も委任状を集めていたことから、その取扱をめぐつて紛議を生じたが、結局、投票に際しては、委員長の集めた委任状は主として男子組合員に配布され、これが行使されたこと、その結果前記動議は九七対八八で可決されるに至つたこと、しかし相当数の女子組合員は右議決に納得せず、大会終了とともに寮内において討議を行つた結果、右大会決議はその方法が不当であるなどの理由で無効であるとして、再度臨時大会の開催を要求する気運が高まり、寮生の自治組織である自治会の役員らが中心となつて大会開催要求のための署名を集めることとなり、規約上の定足数(組合員の三分の一)を超える一五〇数名の署名が得られたことから、これを松本委員長に提出したこと、ところが委員長においてこれに応じない態度をとつたため、七月二八日以後七日頃まで、ほとんど連日女子組合員らは、自治会の役員の指導の下に、早朝の休憩時間(午前七時から同七時四五分まで)中会社内の広場で、大会開催などを要求して職場集会を開いたこと、一方会社側は、右職場集会が会社の許可を得ずに開かれたことからこれを不法なものとして否認する態度をとり、また本件解雇後、申請人が組合役職にあつたこともあつて、申請人の会社内への立入については事実上これを許容していたところ、前記権利停止処分がなされるや、申請人の会社内への立入を阻止しようとし、さらに寮生である従業員が紛争にまき込まれるのを予防するためと称して寮生を対象とする種々の規制措置をなしたことから、これに対抗する女子組合員との間に度々紛争を惹起したが、その間組合員の側にも実力的な行動に出る者もあつて、会社側はその態度を著しく硬化させ、結局同年八月三日から同月一四日頃にかけ、前記集会参加者のうち一〇数名に対し懲戒処分としての解雇をなすに至つたことがそれぞれ認められ、以上の諸点に関する証人松本栄一、同中村俊郎の各証言は申請人本人尋問の結果に照して信用し難く、他に右認定を左右するに足りる疏明は存しない。

ところで、組合員に対する権利停止処分は、一時的にせよ組合員としての権利、利益を剥奪する懲戒処分であつて、これを受ける組合員にとつては重大な問題である以上、それが組合の統制権の行使としてなされる点において、労働組合の存立の基礎をなす団結権のあり方にも関連を有する事柄であり、それだけに慎重な手続と配慮の下に審理決定さるべきものであるといわなければならない。このような観点から本件をみるに、組合が前記臨時大会において緊急動議として提出された申請人らに対する無期限権利停止に関する提案について、特別の事実調査手続も経ずに、また組合内部における十分な討議も尽されていない段階において、急拠これを可決したことは、かりにそれが手続的に組合規約に違背するものでないとしても、極めて軽率であつたとの非難を免れ得ないものというべく、またその議決手続にも前記のような問題点の存することも考え合わせれば、前記統制決議の実質的妥当性には多分に疑問があるものというべきである。従つて、女子組合員らが再度大会の開催を要求したことにも十分な理由があつたものとみるべきであり、七月二八日以後開かれた職場集会についても、右大会開催要求に対する松本委員長の態度を考え合わせれば、これに参加した組合員の行動に部分的に行き過ぎのあつたことは否定し難いとはいえ、直ちに組合の団結を阻害する性質の集会であるとしてその正当性を否認し去ることは躊躇せざるを得ない。しかも、本件においては、前記のように職場集会は自治会の役員が中心となつて開催したものと認められ、申請人本人尋問の結果によれば申請人が七月二八日から八月二日までの集会に参加していたことが認められるものの、申請人が右集会の実行に指導的役割を果したことを首肯するに足りる疏明は存しないところであり、これらの点も看過することができない。かようにして、前記集会に関連して申請人に統制違反の所為があつたものとみることはできない。

次に、申請人が七月三〇日開催の執行委員会を流会させ、その後もその開催を妨害し八月五日まで執行委員会の機能を麻痺させたとの点をみるに、証人片本清作の証言および申請人本人尋問の結果によれば、昭和三九年七月三〇日会社構内の一室で、全執行委員が出席して執行委員会が開かれることとなつたこと、ところが松本委員長がその席に前記権利停止処分を受けた申請人および申請外吉留美智子が出席しているのを見てその退席を求めたことから、申請人らとの間で云い合いとなり、その席に居合わせた大繊連片本書記長はそのまま委員会を開催するよう勧告したが、同委員長は結局申請人らの出席したままでは委員会は開けないと云つて自ら流会を宣したこと、そして執行委員会はその後八月五日まで開催されなかつたが、これは松本委員長が当時執行委員会を開くことは不適当であると考えその招集をなさなかつたことによるものであることが認められる。これによれば、七月三〇日の執行委員会が申請人らがこれに出席していたことが原因で流会となつたことは認められるにしても、申請人らがこれを積極的に妨害したものとはなし難く(なお、一般に権利停止期間中の組合員が組合の大会、執行委員会等に出席し発言することは許されないものと解されるが、前記のように申請人らに対する権利停止処分の妥当性に疑点の存することを考えれば、申請人らが同日の執行委員会に出席していたことを一概に非難することもできない。)、その後執行委員会が開かれなかつたのも、松本委員長がその判断で招集手続をとらなかつたことによるものとみるべきであるから、申請人に統制違反の所為があつたものとみることはできない。

最後に、申請人が事実無根のビラを配布して組合や上部組織を非難中傷するなど義務違反行為をなしたとの点をみるに、本件除名処分前に申請人が組合等を非難中傷した事実無根のビラを配布したと認めるに足りる疏明はなく、また証人片本清作、同松本栄一の各証言、申請人本人尋問の結果によれば、本件第一次解雇後大繊連内に設けられた解雇対策委員会において、大繊連片本書記長らの提案で、申請人が会社に対し自己にある程度の非のあることを認めた上斗争を進めることが討議されたが、申請人が解雇の無条件撤回を固執してこれに反対したこともあつて、対策委員会としても明確な斗争方針を決定し得ず、そのうち自然消滅の方向に向つたこと、そして申請人は右のような対策委員会や片本書記長らの態度について種々不満を述べていたことが認められるが、これをもつて申請人が組合の統制を乱したものとはなし難いところであり、本件においてはそれ以上に申請人を組合から排除しなければならない程の著しい義務違反の行為があつたことを認めるに足りる疏明は存しないところである。

以上要するに、除名理由とされた申請人の各所為は、前記組合規約中の懲戒規定に該当しないものであるかないしはこれに触れるとしても、これを理由に懲戒処分中最も重い除名処分をなす理由にあたらないものであり、これをもつて組合規約中懲戒規定に該当するとしてなした組合の本件除名処分は統制権の乱用として許されない性質のものであるから、本件除名処分はこの点において既に無効というべきである。

(二)  第二次解雇の効力

本件第二次解雇は、前記のように会社、組合間のいわゆるユニオンシヨツプ協定に基き、本件除名処分がなされたことを理由になされたものであるところ、ユニオンシヨツプ条項に基く解雇は、除名処分が有効であることを前提として、組合に対する義務履行としてなされる点においてのみ法的効力を承認されるものと解すべきであるから、前記のように申請人に対する組合の除名処分が無効なものである以上、本件第二次解雇は法的根拠を欠き無効といわねばならない。

五、仮処分の必要性

以上の如く、本件第一次および第二次解雇はいずれも無効であるから、申請人は依然として会社従業員としての地位を有するものであるところ、成立に争いのない甲第二二号証、申請人本人尋問の結果によれば、会社は本件解雇後申請人を従業員として取扱わず、会社内への立入も拒んでいること、また申請人は従前組合専従者として会社から賃金の支払を受けていなかつたところ、申請人は昭和三九年七月二六日の臨時大会において無期限権利停止の処分を受け専従業務を解かれたため、会社は組合との協定に基き申請人を職場に復帰させ賃金を支払う義務があるのに本件解雇を理由にこれを履行しないこと、そのため申請人は収入の途を絶たれ生活に窮していることが認められ、現状のままで本案判決をまつていては、申請人において著しい損害を受けることが明らかである。従つて、被申請人に対し、申請人をその従業員として取扱い、前記専従解除に伴い申請人が支払を受けるべき賃金相当額の金員を支払うよう命じる仮処分の必要性を肯定せざるを得ない。なお、会社の賃金支払日が毎月二八日で前の月の二一日からその月の二〇日までの賃金を支払つていることは当事者間に争いがなく、また成立に争いのない甲第二〇号証によれば、申請人の賃金額は一ケ月当り一八、五〇七円を下らないものと認められる。また申請人が会社から、昭和三九年の七月中と八月中において、各一三、〇〇〇円の交付を受けていることは当事者間に争いがないので、これを昭和三九年七月二七日から同年八月二六日までおよび同月二七日から同年九月二六日までの各手切賃金の内金支払に充当すると、右期間の賃金に関する限り仮処分の必要性を欠くものというべきであるから、結局本件申請のうち金員支払の点については、昭和三九年九月二七日以降毎月二八日限りその前の月の二一日からその月の二〇日までを一ケ月として、一ケ月一八、五〇七円の割合による金員の支払を命じる限度で必要性を認めるのが相当である。

六、結論

以上の次第で、本件仮処分申請は右限度で保証を立てさせないでこれを認容すべく、その余は失当とし却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条第九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 富田善哉 小北陽三 弘重一明)

(別紙(一))

「便所の悪臭を消せ!」

「労務課長の口にだまされるな、夜勤の臭い風呂はもうごめん」

今職場や寮の中には不満や要求が山ほどあります。それは職場討議の中や部屋の話し合の中で次えと出て来ています。

人員不足にともない会社はますます私達にそのしわよせをおしつけて来ています。それは公休出勤や夜勤の残業(夜十二時まで)などにあらわれて来ています。組合は残業については職場の討議をかさね出来るはんいの協力をしているにもかかわらず会社は春斗に向けて組合の団結を弱めるために、今度は守衛の組合員に対して「非組合員にする」攻撃をくわえて来ています。

組合はこの問題の本質をしつかりとつかまなければなりません。

そしてこの様な行為は不当で有りけつしてゆるしてはなりません。

組合員である守衛さんに対して非組合員に成れと言いながら一方では異常な勤務をさせ会社の言いなりに働かせようとしています。

そして非組合員にする事に依つて組合員の団結を弱めようとねらつています。

なぜなら労務課長は「守衛は楽だ」とか「それにしては賃金が高い」などといつて干渉し組合員の中にそれをふきこみ組合員の団結を弱めようとねらつている。

皆さん!実さい守衛さんの仕事は楽でしようか

守衛さんの訴えは次の通りです。

○ 「会社が非組合員にすると言つた時はガツクリとなり会社をやめようかと思つた。…………」

○ 又もう一人の守衛さんで有つた組合員は守衛で非組合員になる位なら現場にはいるといつて現在現場で仕事をしています。

○ 「一人の守衛さんは現場にはいりたくても体がよわく守衛の仕事をしかたなくやらなければならないのです。その上非組合員にされたら私達の要求はもつてゆく所がなく会社の言いなりにしなければならない、仕事はちがつても会社に使われている労働者は一人ではだめです。」と訴えています。

又木村さんの不自由になつた体はこの会社の現場で手の指をとられてしまつたのです。守衛さんには現場と又ちがつた苦しみがあると思います。現場で苦しい時私達は大きな声でどなる事が出来ます。又機械をなぐり木カンをなげつけ気を晴らす事が出来ます。守衛さんにはいやな事があつてもそうする事が出来ません、皆さん又私達元気なものが一日中じつとしている守衛の仕事が出来るでしようか?

皆さん守衛さんは私達と同じ様に会社に使われ働かされている仲間です。私達は守衛さんの仕事の苦しみを聞き理解し一緒に斗つていかなければなりません。

組合は二人をあくまでも守り不当な会社の攻撃に対しててつてい的に抗議し、今職場や寮の中に山のように有る要求や不満を結集して斗う時です。

○ 寮の中では自治会を中心に部屋割の問題、めしの件、風呂場の件、ミシン室の件について労務課長のうまい口にごまかされないで二度とくさい風呂にはいらせない様に斗わねばなりません。

職場の中の便所の悪臭は何年も前からすこしもよくなつていないし、悪臭のために仕事も不快な気持でしなければなりません。『便所のにおいをなんとかせよ!』

(別紙(二))

=日本原水協の旗のもと=

三・一ビキニ被災十周年原水禁全国大会成功のため私たちの力を結集しよう!!

組合員のみなさん

三月一日は、アメリカのビキニ環しよう水爆実験による惨禍から十周年にあたります。そのために第五福龍丸の久保山愛吉さんが死んだ事は記憶していると思います。この日は毎年“ビキニデー”とよばれて、日本人民が屈辱をかみしめ、平和へのねがいをあらたにする全国的な統一行動の日となつています。

みなさん!政治は戦争の方向に進んでいる。

今、私たちのまえには、アメリカ原子力潜水艦の「寄港」、F一〇五D機の横田基地えのもちこみなど、平和どころか国際世論に逆行した、アメリカの軍事侵略に加担し、平和ムードにかくれて戦争の方向えと政治を進めています。

東北アジア軍事同盟の仕あげである日韓会談を早期妥結させるための、あわただしい策動が行われています。

ハワイ=沖繩をむすぶ米軍の大空輸作戦など、私たちの国が核攻撃の前進基地となりつつあり、日本の軍国主義復活、強化、自衛隊の核武装がすすめられ、憲法改悪の危険もせまつています。

これらの事実は今まで十余年の原水禁運動、そして昨年の第九回原水爆禁止世界大会の決議がまつたく正当だつたことを示しています。

しかし、このかつてない危険な事態の中で日本の平和連と日本原水協に対して分裂をもたらす策動がはげしくつづけられています。

大阪では、大阪原水協の精神と斗いの伝統をふみにじり分裂組織が一部の人達に依つてつくられ、平和をねがうすべての人達の運動を逆行させ弱めています。現在、目前の緊急な核戦争の一つ一つの危険と斗うため分裂的行動に反対して、今こそ行動で統一をつよめすべての一致出来る組織と個人の力を合せて当面の核武装と核戦争に反対して斗いましよう。

みなさん、三・一ビキニデーに私達の力で代表を送りましよう。

平和は私達自身の具体的な行動がなくては守れません。又勝ちとれるものでもありません。

職場、地域で話し合い、討論し学習し、署名や募金などの行動をおこしましよう。いきいきとはつらつとした私達の力を結集することが出来るなら、分裂策動を打り破り、平和を脅かすものを粉砕し、アジアと世界の平和が守れるのです。今泉南原水協議会では被爆者の救援のために十円カンパの運動をおこしています。私達もこの運動に積極的に参加し職場の中で組織してゆきましよう。

第五福龍丸の久保山さんの墓前祭はビキニデーで行われます。泉南原水協から全国の仲間と共に参加しましたそして私達の仲間である阪紡の代表と共に東邦の白沢律子さんが参加しました。

私達もこのビキニデーの成功のために頑張りましよう。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
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